人混みの黒い影

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人混みの黒い影

 最初に『それ』を見つけたのは高校生の時だった。  友達と地元の祭りに出かけたのだが、人混みではぐれてしまい、探していた時に雑踏で見かけたのが『それ』だった。  顔も髪型も服装も性別も何一つ判らない。一言で言い現すなら『黒い影』と呼ぶのが適切だろう。  祭りの人混みの中、そいつはユラユラと人の波に揺られていた。  周りは何故か誰も何も言わないが、そいつはあまりにも異質だ。だから視線が外せなくなり、じっと見つめていたら、そいつがこちらをふいに向いた。  顔は判らない。でもそいつがこっちを向いたことと、どうしてか『笑った』ことが理解できた。  さっさと目を逸らせばいいのにどうしてかそれができず、じっとそちらを見続けていたら、人波から抜け出すようにそいつが体ごとこちらを向いた。  寄って来ようとしている。あいつを近づかせてはダメだ。そう思うのに凍りついたように足が動かない。  固まり続けるしかできない俺の肩に何かが触れる。その途端呪縛が解け、振り向くとそこにははぐれた友達の姿があった。  友達と話しながら人混みを窺う。けれどそこにさっきの黒い影はおらず、俺は心底安堵した。  でもこの件以降、人混みができるような賑わいの場に行くと、俺は必ずあの黒い影を見かけるようになった。
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