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* * *
ねえ、お母さん。
昔、よく二人でこうして向かい合って話をしたよね。
どんなこと話してたっけ?
すぐに忘れてしまうようなつまらない話ばかりだったけど、わたしたち、よく笑ってたよね。
もう一度、あんな風に笑い合いたいな。もっといっぱいお喋りしたいな。
「――なんてね」
わたしは小さく苦笑した。
今はもう真夜中。時計の針は間もなく二時を指そうとしている頃だ。
希望のことがあったからだろうか、なかなか寝付くことができなかった。
目の前にあるのは物言わぬ写真。きらびやかな装飾をされた、仏壇と呼ばれるもの。仏様がいてお位牌があって。ここのどこにお母さんがいるのか、わたしはまだよくわからない。よくわからないけれど、こうしてここに向かい合って、わたしはお母さんに語りかける。
だけど、わたしの声がお母さんに聞こえているのかどうか、それすらもわからない。
だって、わたしにはお母さんの声はもう聞こえないから。
「何か言ってよ……」
そう呟いてみたって、返事はない。
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