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馬鹿げている、と思う。
わたしは、希望に嫉妬している。希望ばかりがお母さんを失った現実から守られていることに、わたしは嫉妬しているのだ。
わたしだって――守られたいのに。
そう思うと、余計に涙が溢れてきた。
悲しくて、情けなかった。希望に嫉妬している自分が嫌で嫌で仕方がない。
涙が止まらなくて、膝を抱えてそこに顔をうずめた。気持ちが鎮まるのをこのまま待つつもりだった。
すると突然、ポン、と頭に何かが触れた。
「っ!」
あまりにびっくりして、泣いていることも忘れて、勢いよく顔を上げた。
「じ、仁……?」
顔を上げた先には、複雑そうにわたしを見下ろしている仁がいた。
「なんだよ……」
仁は眉を顰めてその場にしゃがむと、ポンポンとわたしの頭を軽く叩いた。
「こんな夜中に、一人で泣いてんなよ」
わたしは慌てて顔を拭った。
「な、泣いてなんか……」
「別にいいんだよ、泣くのは。ただ、こうやって一人で泣くなって」
仁は優しくそう言って、そっとわたしの頭を抱き寄せてくれた。
――驚いた。仁からこんなふうにされたことは今までなかったから。
でも、ゆっくりと伝わってくる仁の体温は温かくて、それがわたしをホッとさせてくれた。それなのに、一度止まったはずの涙はまた流れてきて、仁の服に染みを作っていく。
「ごめんな、カズ」
仁が静かに言った。
「きっとカズには無理をさせてるんだな……さっきの希望のことも……カズにまで気が回らなくてごめん」
仁はゆっくりと頭を撫でてくれる。まるで、小さな子どもにするように何度も優しく。
「でも、カズ。こうやって夜中にひとりで泣くのは止めよう。俺も父さんもわかっているつもりだよ、お母さんを失ったカズの辛さとか悲しさとか」
思わず顔を上げた。仁の真っ直ぐな視線とぶつかる。仁が目を細めた。
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