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希望はどんな顔をするだろう? 部屋の装飾。仁の作った唐揚げ。おとうさんが頼んだ贅沢なお寿司。わたしが買ってきたイチゴのケーキ。
その顔を想像するだけで、顔がつい綻んでしまう。
わたしは自分で用意した小さなプレゼントの箱を取り出して、そっと両手に包み込んだ。
この中に入っているのは、小さなキーホルダー。ビーズで小物を作るのが得意だったお母さんの手造りのものだ。スワロフスキービーズを使って作った恐竜の形のキーホルダーで、わたしがもうずいぶん幼い頃に作ってもらったものだった。
希望にしてみれば、単純におもちゃなんかを貰ったほうが一番嬉しいのだろうけど、わたしはこれを希望にあげたかったのだ。お母さんからのお祝いという意味も込めて。
ねえ、お母さん。
心の中で、お母さんに向かって語りかけた。
わたしはもう知っている。おかあさんはここにいる。わたしが忘れない限りはずっと一緒にいるのだということを。それは生きている人間の勝手な思い込みなのかもしれない。でもそれでもいい。
だから、わたしは心の中で語りかける。
お母さん。
わたしをこの家に連れてきてくれてありがとう。
わたしに家族を残してくれてありがとう。
希望を残してくれてありがとう。
「――カズー! もうすぐのんと父さん帰ってくるってよ」
階下から仁の声がした。
「はーい!」
わたしは大きな声で返事をして立ち上がった。
大好きな家族と過ごす、楽しい時間が始まる。
(第1話 おわり)
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