第2話「恋」の始まり?

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 わたしには三歳になったばかりの弟がいる。  希望(のぞむ)という名の弟はとても……元気だ。  保育園の先生からは、男の子の中ではおとなしい方ですよ、なんて言われているけど、三歳児の「おとなしい」なんて、実際そんなに「おとなしい」ものじゃない。 「こらっ、のん! カズのノートに落書きしたでしょ!」  ブロックを組み立てていた希望が、きょとんとした顔で、怒るわたしを見上げる。そんな希望の目の前に、問題のノートを突き付けた。 「ほらぁ、ここ! ぐしゃぐしゃって描いたの、のんでしょ?」  希望が、その大きな目をパチパチとさせて首を傾げた。 「ぐちゃぐちゃ、ないよー。くーまだよ」  くーま……つまり車ってことか――じゃなくて。 「あのねぇ、のんくん。このノート、カズのお勉強のノートなの。落書きしちゃダメって、何回も言ったでしょ?」 「うん」  希望はコクリと頷く。さすがに「しまった」というような表情をしている。本当にもう、同じ注意をするのはこれで何度目だろう……。  腹立てるのも馬鹿らしくなってきて、短く息をついて、希望の頭を撫でた。 「あのね、希望。カズ、このノートとっても大事なの。希望のお絵描きのノートはちゃんとあるでしょ。絶対にカズのに描いちゃだめ。いい?」 「かじゅ、ごめんなたい」  希望はぺこりと頭を下げた。かと思ったらすぐに顔を上げもうニコニコしている。概ね「ホラ、ぼくちゃんと謝れたでしょ、すごい?」とでもいうところだろうか。こんな顔されちゃ、もうそれ以上は何も言えない。子どもの笑顔は時にすごい防御力と攻撃力を発揮するものだ。
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