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十二月二十五日――クリスマス。
今年もこの日がやってきた。
二度目のお母さんの命日。三回忌の法要は、お寺で家族だけで行うことにした。
「じゃあ、父さんは車暖めておくから。最後、戸締りに火の元確認、頼んだぞ」
「はーい!」
玄関を出て行くお父さんに答えながら、わたしはコートを手に取った。その脇を希望が駆けて行く。
「こら、のん! 廊下を走ったら滑るよ!」
「だいじょーぶだよー! ねー、かず。くつ、どーれ?」
そう言ってわたしを振り向く希望も、今日はきちんとした格好をしている。襟付きシャツにジャケットを着せただけですごくお兄さんになったように見えるから不思議だ。いや、実際、希望は大きくなったのだ。いつのまにか、言葉もずいぶんはっきりと喋るようになってきたし。
四歳半――希望はもう四歳半だよ、お母さん。
「靴、そこに出してある黒いの――あ、それそれ。自分で履けるかな?」
「うん!」
滅多に履く機会のない黒い革靴は、お父さんが知り合いの子どもさんから譲り受けたものだ。恐らくあまり履いていないのだろう、新品も同然だった。
「よいしょ……はけたー!」
「お、すごい!」
嬉しそうに足を上げて靴を見せる希望の隣にしゃがみ、仕上げにわたしがマジックテープのベルトをきつく留めた。希望にはこの靴はちょっとだけ大きいようだ。
「ね、行ってていい?」
わたしが返事をしないうちから、希望はもう玄関のドアに手を掛けている。苦笑しながら頷いた。
「いいよ。お父さん車のところにいるから。ちゃんと声かけて行ってね」
「はーい!」
希望は嬉しそうに笑ってドアを開けて出て行った。すぐに希望とお父さんの会話が聞こえる。大丈夫そうだ。
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