660人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
* * *
「――かわいいねぇ」
中休み、友達の美香が例のノートを眺めながらクスクスと笑う。わたしはそれに苦笑いを返した。
「まぁ、かわいいけどねぇ。困ることのが多い」
「だろうね。でも面白そう」
美香がさらに笑う。以前聞いたことだけど、一人っ子の美香にとって、小さな子どものいる生活というのは「憧れ」なんだそうだ。確かに、傍からは楽しくて面白い生活に見えるものかもしれない。実際は――まあ、わざわざ人の憧れを壊すようなことは言わないでおこう。
「何、それ」
美香の後ろから急に手が伸びてきて、わたしのノートをひょいと掴みあげた。
「木村くん!」
美香が驚いたように顔を上げる。ノートを取ったのは、キムタク――いや、木村琢磨くんだ。
「何、このゲージュツ的な落書き。春山さん描いたの?」
「まさか。弟の作品です」
ため息交じりに言うと、木村くんは楽しげに笑った。
木村くんとはちょっとしたことをきっかけに、よく話すようになった。わたしに弟がいることも知っている訳で、本当は聞くまでもなく、そのノートの落書きが希望によるものだとわかっていたのだろう。
「これ車? かな」
「へえ! よく分かったね」
「え、当たり? オレすごいな!」
木村くんは笑って「ハイ」とわたしにノートを返すと、そのまま「じゃあね」と離れて行ってしまった。
そんな木村くんをなんとなく見送っていると、美香がずいっと身を近付けてきた。
最初のコメントを投稿しよう!