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「良かった。サイズぴったりだな」
満足そうに笑う仁。あまりに突然のことに、わたしはどうしたらいいかわからない。
「え、な、何これ……?」
「ん? 指輪だけど」
飄々とそう言った後、仁はにっこりと笑った。
「クリスマスプレゼントだよ」
「あ……」
昨日、わたしからは仁にプレゼントをあげたけど、そういえば、仁からは何も貰ってなかった。特に期待していた訳でもないし、気にしていなかったけど……まさか今日こんなサプライズがあるなんて。
「あ、ありがとう……」
じわじわと嬉しさが湧きあがってくる。だんだん頬が緩んでくるわたしに、仁は悪戯っぽい笑みを向けた。
「そっちの指に付けるヤツはもうちょっと待っとけよ。そのうち必ず、な」
「え?」
そっちの指って……あ。
意味が掴めて驚いて顔をあげたわたしに、仁が素早く顔を寄せる。
唇に仁の温もり。ゆっくり吸いつくように触れると、軽く音を立てて離れた。まだ目を丸くしているわたしを見て、仁が微笑む。
「あーやばい。口紅付いたかな」
少し冗談めかした口調。それはきっと、照れているからだ。
「先、行ってるからな。鍵よろしく」
口を気にしながら靴を履き始める仁に、わたしは笑って言った。
「大丈夫、色付いてないよ」
仁はわたしを見返して苦笑した。
「どーも。じゃ、お先」
外へ出て行く仁を見送って、わたしは右手を目の前に掲げて見た。
今つけてもらったばかりの指輪。細いリングに小さな薄い水色の石――これはたぶんアクアマリンかな。
「きれい……」
呟いてその手をそっと抱きしめ――そこでハッと我に返る。
「あ。行かなきゃだ!」
今は浸っている場合じゃなかった。
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