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お墓の周りの掃除をし、墓石をきれいに流して。お花を活け、お供えのお菓子を添えてようやくお参りの準備は出来た。
お父さんが、持ってきたろうそくを立てて火をつける。束にした線香に火をつけると、何本かずつをわたしと仁に分けた。それを線香皿に入れる。
最初にお父さんと希望が並んで手を合わせる。その次にわたし。そして仁が続く。
緩やかに吹く冷たい風だけが、静かにわたしたちの横を通り過ぎていく。
静寂の時。静謐なひと時。
皆のお参りが終わって、おとうさんがハアッと空に向って息を吐いた。
「雪でも降りそうな天気だけど、もってくれそうで良かった。日頃の行いが良いからかなぁ」
「単なる運」
水を差すような仁の言葉に、おとうさんがため息をつく。
「日頃の行いが良くないと幸運はついてこない――ん? どうした希望?」
お父さんの言葉に希望を向くと、なんだか足をもじもじとさせて落ち着かない様子だ。すぐにピンと来た。
「のん、おしっこ?」
希望は黙ってこくりと頷いた。眉がハの字に下がって情けない顔になっている。
「えー、ちょっと大丈夫? トイレ着くまで我慢よー」
わたしが希望の手を取ると、それを横からおとうさんが引きとった。
「抱っこして連れて行った方が早い。せっかくの一張羅を汚したら大変だからな。いくぞー」
言うが早いか、おとうさんは希望を抱き抱えて大股で走って行く。確かに、わたしが連れて行くより早い。
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