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仁は言葉を続ける。
「『父さんと結婚してくれてありがとう、希望を産んでくれてありがとう、俺の母親になってくれてありがとう』」
そして、わたしを真っ直ぐに見下ろした。
「『俺が和音を幸せにします。一生大事にします。一緒に生きていきます。決して一人にはしません。だから安心して下さい』……そう話した」
仁がわたしの目を覗き込む。その目があまりに優しくて、わたしは吸い込まれるようにその瞳を見つめ続けた。
胸の奥から言葉にできないぐらい大きな何かが込み上げてくる。溢れてくる。
目頭が熱くなり、すぐに視界が歪んだ。既に冷え切った頬に温かいものが流れた。
「……泣くなよ、こんなことで」
仁が小さく笑い声を零し、わたしの頭を腕で囲むように抱き寄せた。
「愛してる」
頭上から優しく降ってきたその言葉に、思わず目を見開いた。これまで仁から一度だって聞いたことのない言葉だったから。
仁が苦笑めいた息を吐いた。
「こんな言葉、まさか自分が言うとは思ってなかった。でも『好き』という言葉じゃ足りない思いもあるんだとやっとわかった気がする。俺は和音を愛してる」
そして頭に優しく口づけされる気配がした。一度止まりかけた涙がまた溢れてくる。
わたしも今わかった気がする。
さっき胸の奥からこみ上げてきた言葉にできないくらい大きな何か――それは「愛している」という感情だ。
それを伝えたい、と思った。
「わたしも……仁を……愛してる」
鼻をすすりながら言ったわたしに、仁がクスッと笑う。
「知ってる」
すぐに返ってきたその短い答えに、わたしもつい笑ってしまった。
「何、その自信……」
「さあ? 何だろうなぁ」
仁はクスクス笑いながら、もうそれ以上は何も言わず、そのまましばらくわたしの頭を抱き寄せてくれていた。
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