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「――あー! らぶらぶだぁ!!」
突然甲高い希望の声が飛び込んできた。びっくりして顔を上げると、希望が走り寄って来ていた。どうやらトイレは間に合ったのだろう。晴れ晴れとした顔をしている。
「じんとかず、らぶらぶー!」
わたしたちの脇に立ち、何か特別にいいものでも見つけたような顔をして、くっついているわたしたちを見上げる。
「ちょ、ちょっと、のん――」
わたしが慌てて仁から離れようとすると、またぐっと肩を抱き寄せられた。仁がニッと笑う。
「そ。ラブラブなんだよー。どうだ、羨ましいだろう?」
「じ、仁!」
抗議の声をあげようとしたわたしの後ろから、また別の声が介入してくる。
「ほーんと、羨ましいよ。見せつけてくれちゃって」
「! お、お父さん」
お父さんがわざとらしく頭を掻きながらわたしたちの横を通り、お墓の正面にしゃがんで手を合わせた。そして、大袈裟な長いため息をつく。
「しのぶよ……。どうやら俺がおじいちゃんになる日も近いかもしれん……」
「え!」
わたしと仁は思わず顔を見合わせて、二人同時に吹き出した。飛躍しすぎだ。
もちろんお父さんも軽い冗談で言った言葉だったのだろうけど、その言葉に敏感な反応を見せたのは希望だった。
「えっ!? なんでっ? おとうさん、おじいちゃんになっちゃうのー? ヤだよう。おとうさんはおとうさんがいいー!」
本当に今にも泣き出しそうにおろおろしている。お父さんが慌てて取り繕った。
「違う違う! 大丈夫、父さんはずっと希望の父さんのままだから。急におじいちゃんになったりはしないから、な」
「ホント?」
「ホントホント!」
「よかったぁ!」
希望の笑顔が戻って、おとうさんがやれやれと立ち上がった。わたしたちの方を向き、眉をひそめる。
「おまえたちのせいだぞー」
「何でだよ」
仁が苦笑する。わたしも声を立てて笑った。
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