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「ねえ。最近カズと木村くん、仲良くない?」
「はい?」
「木村くん、よくカズに話しかけてくるじゃない?」
「そう?」
確かに喋るようにはなったけど。「よく話しかけてくる」ほどでもないと思う。
「木村くんてさ、自分からはあまり女子とは関わらないタイプじゃない。変に騒がれるのが嫌って話聞いたことあるもん。でも、カズにはわりと普通に話しかけてくるじゃない?」
ちょっと呆気に取られながら、美香の言葉に感心した。よくまあ見ているものだ。それにしても、木村くんが「自分から女子とは関わらないタイプ」だとかって話、わたしはちっとも知らなかった。
「カズ、気をつけた方がいいんじゃない?」
「何を?」
「本気で木村くんを好きな子も多いみたいだし。嫉妬とかさ」
「ええ? それはやだな。身に覚えのないことで嫉妬されんのはご勘弁だな」
「身に覚えのない、ねぇ。じゃあさ、カズ。もし、木村くんに「付き合って」とか言われたらどうする?」
美香が興味津々という目を向けてくる。これには苦笑するしかなかった。
「何それ」
「もしもの話。だってさー、カズからちっともそんな話聞かないんだもん。何、男に興味ない?」
……なんか、それは極端な解釈のされ方じゃないだろうか。
「別にそういう訳じゃないけど。機会がないだけで」
わたしだって、普通に「彼氏」というものが欲しいなぁという気持ちはある。一応、年頃ですから。
でも、付き合いたいな、と思うような人との出会いが今のところないのだ。そして、そういうこと以前に、お母さんのことがあってからはそれどころじゃない、というのが正直な話なんだけど。でも、それは人には言わない。
美香はなんとなく不満そうに「ふうん」と言って、もう一度意味ありげな視線をわたしに向けてきた。
「カズと木村くん、お似合いだと思うよ? 好きになってみたら?」
「好きに――ってねぇ……」
人を好きになるのって、そんなものじゃないと思うのだけど。
返事代わりに大きなため息をついて、ノートに目を戻した。
雑談もそろそろ切り上げないと。次の数学のテストの時間まで、あと五分になろうとしていた。
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