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試験中は午前授業。
早く家に帰れるということは、それだけ一人の時間が持てるということで。わたしは友達との会話もほどほどに、さっさと教室を出た。
昼過ぎに家に着いたとして……希望が保育園から帰ってくるのは夕方だ。たっぷり四、五時間も一人でいられる。これはかなり貴重な時間だ。
「待って、春山さん!」
そう声をかけられたのは、駐輪場から自転車を出して、ペダルに足を乗せた瞬間のことだった。
声をかけてきたのは木村くん。彼は慌てた様子で自分の自転車を出してきてわたしの隣に並んだ。
「どうかしたの?」
「あ、いや。一緒に帰ろうと思って――ほら、途中まで道同じでしょ」
木村くんの家は、希望の通っている保育園の近くのマンションらしい。それはわたしの帰り道の途中にある。一緒に帰るのを断る理由もないし、「いいよ」と頷くと、木村くんはホッとしたように笑った。
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