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この日の試験の出来具合などを話しながら、二人でのんびりと自転車を進める。
木村くんは、わたしの中ではかなり話しやすい方の人だ。会話もスムーズに進む。
「そういえばさ」
木村くんが少し気遣うようにわたしに顔を向けた。
「春山さんところは弟くんいるから大変じゃない? 勉強もだけど、保育園のお迎え。試験中はどうするの?」
木村くんは、わたしの家庭の事情の細かいところは知らないまでも、時々わたしが弟の保育園のお迎えをやっているということを知っている。それがきっかけで話すようになったわけだし。
「それは大丈夫。じ……兄が行ってくれるって」
木村くんは目を丸くした。
「お兄さんいるの?」
そっか。木村くんは知らないんだ――って、それもそうだ。一人ひとりのクラスメイトの詳しい家族構成など、いちいち知っちゃいないだろう。
「うん。二つ上の大学生」
「へえ。そっか。じゃあ、お迎えのことは大丈夫なんだね」
木村くんはそう言って微笑んで、それ以上はウチについてのことにはもう何も触れなかった。もしかすると、木村くんは気を使って、あえて聞かないでくれているのかもしれないと思ったけど、木村くんの涼しい表情からはそこまではわからない。
それからまた明日のテストことなど当たり障りのない話をしているうちに、木村くんのマンションへの分かれ道に着いた。
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