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「それじゃ、また明日ね」
「あ。ねえ、春山さん」
手を振ってそのまま行こうとするわたしを、木村くんが呼び止める。慌ててブレーキをかけた。
「ごめん。あのさ……」
木村くんが言いにくそうに話を切り出した。
「その……テストが全部終わったらのことだけど、どっか遊びに行かない?」
「え?」
「休みの日に遊びに――二人で」
一瞬、ぽかんとしてしまった。
「――え?」
ついもう一度首を傾げると、木村くんは頭をかきながら、少し照れたように苦笑した。
「突然ごめん。今度の週末にでも、二人でどっか遊びに行けたらなと思って。――ダメ、かな?」
それは、つまり……デート? ――って意味なのだろうか?
そう思いついた途端、急に胸がドキドキしてきてしまった。
「えと……ダメ、じゃないけど……」
あまりに突然過ぎてどう答えればいいのやら……とその時、頭の中に希望の顔が浮かんだ。土曜日は久し振りにみんなで動物園に行く計画を立てていたのだ。そのために、仁もバイトの休みをもらったって言ってた。
「ど、土曜日は無理、かな……家族で出かける約束が」
「じゃ、日曜日?」
「日曜日は……」
――何もない。強いて言うなら、希望とゆっくり遊んで過ごそうかと思ってたところだ。
どうしよう……こういう誘いって、簡単に受けてもいいものだろうか?
でも、何も正式に「付き合って」とかって言われてる訳でもないし。遊びに行こうって言われてるだけだし? 断るのもかえって意識し過ぎのような気も……。
「無理、かな?」
「だ、大丈夫!」
直前までうだうだ考えていたのに、つい反射的にそう答えてしまった。だって、あまりにも木村くんの声が不安そうだったから。
「ほんと!?」
木村くんがパァっと笑顔になる。木村くんのこんな全開の笑顔、見るのは初めてかもしれない。
一瞬、見惚れてしまった。
木村くんがかっこいいのは分かっていたつもりだけど……違う。木村くんは「かっこいい」というよりも「かわいい」だ。
「じゃあさ、今度オレからまた改めて連絡するから、良かったら、メアドとか教えて?」
そうして互いの連絡先を交換した後、木村くんと別れて家に帰った。
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