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* * *
その日の夜のこと。
夕食後、居間のソファーに座ってテレビを見ている時に、わたしの携帯がメッセージの着信を告げた。
――木村くんからだ。
その内容は、
『ごめん、別に用事はないんだけど。明日もテスト頑張ってね』
――とだけ。絵文字も何もない、いたってシンプルなもの。
というか、「テスト頑張ってね」って。自分もだろう! と突っ込みを入れたくなるような文面に、思わず吹き出しそうになってしまった。そこは「頑張ろうね」じゃないのだろうか。
「何、にやけてんの」
隣にドサッと腰を下ろした仁が、面白そうにわたしを見やる。わたしが咄嗟に携帯を後ろ手に隠すと、仁はニヤリと笑った。
「あ、慌ててる。なに、オトコからのメール?」
「!」
「あれ、当たり?」
確かに男から、なんだけど。でも仁の言った「オトコ」のニュアンスはそれとは違う意味に聞こえた。
「そっかぁ。カズにもとうとうオトコができたか」
ほら。やっぱりそう来た。
「違います。男は男でもただの友達からです」
「あらら。それは残念」
仁はわざとらしく肩をすくめた。
「でも、そのメールは友達からだったとして。カズ、今彼氏いないの?」
今、希望とおとうさんは2人で一緒にお風呂に入っている。じゃないと、仁だってこんな話はしてこないだろう。
「いない――ってか、そんなことどうでもいいでしょ」
「んー。まあいいんだけどさ。でも、カズからそういう色っぽい話、全く聞かないなーと思って」
……ん? なんか今日、誰かからも同じこと言われたような。
でもその前に、仮にわたしに付き合ってる人がいたとして、それをわざわざ仁に言うかって話だけど。
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