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「でも何年か前あったな。確か、俺と同じ年のヤツと付き合ってたよな、カズ」
……あ。確かにそういうこともあった。
中学3年生の頃、わたしは2歳年上の人と付き合ってた。と言っても、休日に一緒に遊びに行ったり、学校帰りに待ち合わせて、公園でお喋りをしてたぐらいだ。恋人らしいことをしたといえば、手を繋いだだけ。幼い付き合いだったと思う。しかも、「自然消滅」って感じで終わってしまった、中途半端なお付き合いだった。
そんな本人すらも忘れかけていたことを、仁はよく覚えているものだ。変に感心してしまう。
「人のことよりも、自分はどうなのよ?」
こっちのことばかり言われるのは癪なので、そう切り返してみた。仁は「俺?」と目を丸くする。
「俺は――まあ、ぼちぼちな」
「あ、ずるい答え」
仁はニヤッと意地の悪い笑みを見せた。
「何、気になる? 俺の恋愛事情」
何か憎たらしい。フンっとそっぽを向いてやった。
「べっつにぃ。仁はモテるみたいだし、どうせカノジョには困っていないっていうんでしょー」
「さーてね。どうだろー」
フフンと笑って仁はテレビに視線を向けた。もうそれ以上は話すつもりもないらしい。
まったく。仁はいつもそうだ。この手の話題に限らず、仁は人のことにはいろいろ口出しするくせに、自分のことになるとのらりくらりとはぐらかす。おかげで、仁と家族になって4年が経つけど、掴みどころがないという点については、未だ印象が変わらない。
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