第1章 [凛]

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 半世紀以上の長きにわたり続いている、第三次世界大戦は、現在、休戦状態となっている。産業は廃れ、職を失うものは続出した。結果、格差は広がり、国民にも不満が蓄積されていった。   今までと変わらず、不自由なく暮らせる層から、生きるために必死にならなければいけない層まである。現在、後者の人間は圧倒的に増える結果となっていた。  戦争がもたらした不利益はあまりにも大きいものであった。  しかし、そんな中で利益を得る者達もいた。戦争特需により賑わった産業が主軸となり、ごく一部の組織が国の中枢部とくっつき、非常に強い力を持つようになったのだ。  まさに、富の独り占めとも言える状況であった。これに不満を持った、反政府勢力となる市民たちは何度も暴動を起こした。  これに対して、殆どの戦争当事国は、悪法も法なりと言わんばかりの、独自の法制度を推し進め、市民の生活行動の大幅規制を始めた。無論、反政府活動などへの危惧からだ。  これにより次第に、各国は他国侵略への下準備と、自国の制圧へ暴走することとなった。かくして休戦中にも関わらず、アメリカや中国をはじめ、世界は混沌という泥沼に足を踏み入れた。  もちろん程度は異れ、日本も例外ではない。 ☆  ここは日本。俗称、区画外地域(ロスト)。この地区は、国の管理の外にある。いわば見放された地域。  その中で、貧困に苦しみながらも自己を強く保ちながら生きる、素直で懸命な一人の少女がいた。名前は、桐沢(きりさわ) (りん)。彼女は、盗みなどで日々の活計を立てていた。 ☆  区画整備され、曲がりなりにも都市の形を取り戻した一定の経済が成り立つ地域である自由地区の街中。凜は路上の端に、座り込んでいた。 (初めてだけど、自由地区Cは入りやすいな。ああ、お腹空いてきた)  ロストの住人は、自由地区をメインに窃盗やスリで活計を立てるものが多い。凜もその一人なのだ。  凜は腹を鳴らしながら、人ごみをじっと見つめている。  すると、人ごみの向こうから 「うぁ、離せぇっ、くそったれ!」  と、街中に男の怒号が響き渡る。
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