第1章 [凛]

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 周囲は、見て見ぬふりをして、避けながら歩いて行く者や、ひそひそ話しの傍観者たち。  声をあげる男は、制服を着た数人の男たちに囲まれ、頭を鷲掴みにされ、黒塗りの車に乗せられた。  凜は、気にせずその先を見ながら (またヘマしたやつがいたのか。特別監視機動隊(トクタイ)、私も気をつけないと)  男を連れて行った組織は、治安部隊。特別監視機動隊。通称トクタイ。  捕まれば、一時的に収監される。その後の処遇は、公表されていない。  ただ、刑務所暮らし、などという平穏な事にはならないようだ。その後の道は二つあるらしい。  一つ目は、政府直轄の開発部隊が監視する中で、強制的に労働をさせられるパターン。  二つ目は、医薬事業において治験体として監視下に置かれるパターン。  しかしながら、実際のところは、詳しく分かっていない。情報規制により、正確なことは何一つ言えない状態。  そんな中、凜は、街中を歩く一人の男に眼をつけた。凜は、その男を獲物に定めた。腰を上げ、数十メートル先の男をつけていく。  男は中肉で、背は少し高め。見た目、若く伺える。  買い物を終えた男は、表通りから人が少ない通りへと歩いて行く。  後ろポケットに財布をいれていることに、バカなやつと、ニヤリ。  凜は、物音一つなく、一歩、また一歩。気づかれぬよう、気配を消して近づいていく。  そして、凜は、男に体当たり。ズボンの後ろポケットに手を伸ばした。ここまではいつも通り。  しかし、凜が財布を取り出した手は、男に取られ、あっという間に、右手を背中につかみ上げられ、首を羽交い絞めにされた。  男は物静かに耳元で 「お前、ここいらのトンビの仲間か」  凜は逃げようとするものの、力及ばず。 「離せっ、くそっ」  あたりにいた通行人は、また見ないふりをしている。 「答えろ。お前はここの奴らを知ってるのか」  身動きできずに、苦しそうな声で答えた。 「っ知らない。ここは初めて入ったから」  男は、腕を強く締め上げ、本当か、と問う。 「私は、いつもはここから西のBでやってるんんだ。ここは知らない」  と、必死の弁明。 「信じてよ。あんたのは返すからっ」  トクタイに突き出されるかもしれないと、焦る凜。  昨今、わざと盗ませて、トクタイへ突き出し、報酬を受け取る輩が出てきていると、聞いたことがあったからだ。なぜ、報酬が手渡されるのかは謎だが……
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