第1章 [凛]

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(やばい、連れて行かれるか)  少し間をおくと、周りに嫌なサイレン音が響いてきた。 (終わってたまるかっ、でも身動きできない)  男はいきなり凜を離し、振り返った凜の腹に拳を入れる。ドスッという重い音の後、凛はその場に崩れ、意識を失った。  男は凜を担ぐと裏通りに入る。肩に担がれた凜は、まるで洗濯物のようにぐったり。  数百メートルほど歩くと、マーケットの一画の家に入っていった。 ☆  鍋の煮える音がする部屋で、凛を返り討ちにした男がキッチンで何かを作っている。  凜は起き上がると、ソファに寝かされていることに気づく。 「あれ……ここどこだ……?」  凜はあたりを見回しつつ、立ち上がろうとするが 「いっ、つーーっ!」 (だめだ、まだお腹らへんが痛い)  立ち上がることができず、お腹をさする。 (はっ、そうだ。殴られたんだ)  と、思い出した時。あの男がやってきた。凜は目を、カッと見開き叫ぶように 「お前、さっきの!」  と立とうとするが、力がうまく入らずソファに逆戻り。その後、痛々しくソファにストンっと崩れる。 「起きたか。殴った場所はすぐ治る、心配するな」  男は平然と、向かいの椅子に腰をかけた。凜は疑る仕草で 「あの動き。お前、普通の奴じゃないだろ。何なんだ」  男はしばらく間を置き、凜の方を向く。 「お前もいい動きをしていたな。あそこらへんのトンビ集団の類かと思ったが」  凜はしかめ面のまま 「あいつらの噂は聞いたことある。でも、私は関係ない」  男は静かにため息をついて 「分かってる。これだけ待って誰も来ないなら、そうなんだろ」 「Cのトンビは仲間意識が強いからな。放っておくことはない」  コーヒーを飲みながら、凜をちらっと見て話を続けた。 「お前も手慣れだな。そこら辺にいるのとはちょっと違う」  凜はきょとんと男を見る。そして、ふと疑問が浮かび上がった。 「なぁ、そういえば。なんで、私をトクタイに突き出さないんだ」 「ほぉ、そうしてほしいのか」 「っそんなわけあるか」 「だったら黙ってろ。うるさいやつだな」  凜は眉間にしわを寄せ、男を睨みつける。  しかし構うことなく、男はゆっくり立ちあがり 「お前……腹へってんだろ。食べていくか」  と、友達に話しかけるように問いかけた。
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