第1章 [凛]

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 ソファにもたれる凜は、自分が昨日から何も食べていないことを思いだす。 (そうだ、私昨日から食べてない)  そう思い出した瞬間に、急に凜のお腹が鳴り始めた。男は、思わず失笑。 「ほお、いい返事だな」  凜は顔を赤らめながら言い返す。 「なっ、食べねぇよっ」  キッチンに戻ろうとする男は振り返る 「なんだ、いらないのか。もうできるのに」  キッチンからは、食欲を掻き立てる良い匂いが流れこんでくる。  背に腹はかえられぬと、覚悟を決め 「くっ。た、食べる」  と、凜は赤らめた顔をうつ伏せ、小声で返事をした。  無論、警戒心が無いわけではない。加えて、凛は幼い頃から人をよく見てきた。そこから、善悪はおおよそ雰囲気として感じるものがあった。その経験則からの判断だった。 「じゃ、少し待ってろ」  そう言い残すと、男はキッチンへ戻っていく。 「なんなんだよ……調子狂うやつ」  凜は頭を、ぐしゃぐしゃっとかいてソファに横になった。 (あいつ、一体なんなんだろう……)  頭に疑問が渦巻く。 (私を突き出さない理由って……いやその前に何者なんだ。でも、やっとまともな食べ物)  そんなことを、グルグルと頭に浮かべていれば、男がパンと器を二つ持ってきて、テーブルの上に置いた。 「食え、これがお前の分だ」 「あ、ありがとう……でも、なんで私に」  男はパンをちぎると、口へと運ぶ。 「この世で一番愚かなやつってのはな、相手と自分の力量の差を計らずに戦おうとするやつだ」  凜は、パンを持ったまま動きが止まる。 「まあ、お前のことだな」 「そんなのわかるかっ、だいたいこんな世の中で相手が……」  それを遮るように、男は話を続けた。 「でも、お前はいい動きをしていた。あれは、なかなかだったな」  凜は黙ると、パンをシチューにつけて食べ始めた。 男はパンを口に入れて 「突き出さなかったのは、俺の気まぐれだ。お前、名前は」  凜は、男をちらっと見上げ 「凜、桐沢(きりさわ) (りん)」 「俺は万屋(よろずや) 陸斗(りくと)だ」
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