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ソファにもたれる凜は、自分が昨日から何も食べていないことを思いだす。
(そうだ、私昨日から食べてない)
そう思い出した瞬間に、急に凜のお腹が鳴り始めた。男は、思わず失笑。
「ほお、いい返事だな」
凜は顔を赤らめながら言い返す。
「なっ、食べねぇよっ」
キッチンに戻ろうとする男は振り返る
「なんだ、いらないのか。もうできるのに」
キッチンからは、食欲を掻き立てる良い匂いが流れこんでくる。
背に腹はかえられぬと、覚悟を決め
「くっ。た、食べる」
と、凜は赤らめた顔をうつ伏せ、小声で返事をした。
無論、警戒心が無いわけではない。加えて、凛は幼い頃から人をよく見てきた。そこから、善悪はおおよそ雰囲気として感じるものがあった。その経験則からの判断だった。
「じゃ、少し待ってろ」
そう言い残すと、男はキッチンへ戻っていく。
「なんなんだよ……調子狂うやつ」
凜は頭を、ぐしゃぐしゃっとかいてソファに横になった。
(あいつ、一体なんなんだろう……)
頭に疑問が渦巻く。
(私を突き出さない理由って……いやその前に何者なんだ。でも、やっとまともな食べ物)
そんなことを、グルグルと頭に浮かべていれば、男がパンと器を二つ持ってきて、テーブルの上に置いた。
「食え、これがお前の分だ」
「あ、ありがとう……でも、なんで私に」
男はパンをちぎると、口へと運ぶ。
「この世で一番愚かなやつってのはな、相手と自分の力量の差を計らずに戦おうとするやつだ」
凜は、パンを持ったまま動きが止まる。
「まあ、お前のことだな」
「そんなのわかるかっ、だいたいこんな世の中で相手が……」
それを遮るように、男は話を続けた。
「でも、お前はいい動きをしていた。あれは、なかなかだったな」
凜は黙ると、パンをシチューにつけて食べ始めた。 男はパンを口に入れて
「突き出さなかったのは、俺の気まぐれだ。お前、名前は」
凜は、男をちらっと見上げ
「凜、桐沢 凜」
「俺は万屋 陸斗だ」
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