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すると若奥さんは、まだ何か言いたげに玄関先でもじもじしている。
「……あの、大変申し上げにくいんですが」
「はい? なんでしょう」
「数日前からですね、我が家に主人のお母さんが泊まりにいらっしゃっているんですけど……、そのお義母さんが、実は『視える』人でして」
「視える?」
「差し出がましいんですけど、加藤さん、一度氏神様か菩提寺さんに相談した方がいいんじゃないかって」
「はぁ? それどういう意味ですか?」
若奥さんのお姑さんの話によると、加藤さんの家の周りに良からぬ類の『何か』が家の中に入り込もうとうろついているのだそうだ。お隣さんのワンちゃん(名前はモカちゃんと判明)も、その人には視えない『何か』を警戒して吠えているのではないかと。
「そんなバカな」とは笑い飛ばせない、思い当たることがいくつかあった。
駐車場に取りつけた防犯用のライトが、誰もいないのにいきなり点灯したり、すりガラスの玄関扉の向こうに人の気配を感じて、開けてみても無人だったり、ベランダに並べてあったサンダルが、強風が吹いたわけでもないのに、庭の木にぶら下がっていたり……。加藤さんは理解した。
犬が吠えていた原因は、我が家にあったのか ── と。
加藤さんのお宅の仏壇には、近隣の寺院から授与された破魔矢の御守護が供えてあった。家内に良くないことが起きた場合には、玄関に矢の先を外に向けてその御守護を祀るように言われていた。早速その日のうちに御守護を玄関に祀ると、お隣のモカちゃんは嘘のように静かになった。本当に、嘘のように。
実に立派な番犬だと、加藤さんは大層感心している。
【了】
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