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504号室の前では、隣人が待ち構えていた。吉木さんが怒りをぶつけようと口を開く前に、隣人は「なんの音ですか?」と、とぼけた顔で質問してくるのだった。
「これを窓から落としたでしょ! 下に人がいたらどうするんですか! 大事故ですよ!」吉木さんはまくし立てた。
「何を言ってるんですか? そんな事するわけがないでしょ」隣人は薄笑いを浮かべながら、壊れた人形と吉木さんの顔を交互に見ていた。
「やって良い事と悪い事があるんですよ! これは問題になりますよ」吉木さんはそう言って、504号室のドアノブに手を乗せた。
「あれ?・・・・・・開かない」
2人は互いの顔をしばらく見つめ合うしかなかった。頭が混乱していた。
「人形が自分で鍵を掛けて、しかも窓から飛び降りたってことですか?」隣人は声を震わせていた。
「ありえない、ありえない」吉木さんは首を左右に何度も振った。
「その人形は、そこに放置しないでくださいね。絶対に管理人室に持っていってください。お願いします」隣人はそう言い残し、また自分の部屋の中に逃げ込むのだった。
吉木さんは管理人室に戻ると、運んできた人形を静かに床に置き、震える指先でTに電話をしてみるも、繋がらなかった。最悪の結果だった。Tが戻ってくるまでの間、人形を保管しなければいけないのである。
吉木さんは大きめのダンボールに人形を押し込むと、ガムテープで蓋を閉じ、ボイラー室の隅に置いて鍵をかけた。
その後、Tから連絡はないが、家賃は滞ることなく支払われ続けている。人形はボイラー室に置かれたままだという。
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