第1章

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 全ての始まりは、夏のあの日、突然に始まった。  セミがこれでもかと愛を叫ぶ真夏日、平日の午前11時。 「あちぃ……」  彩芽は、部屋でぐったりとしていた。  大きな不満が無いと書いたが、あれは今や嘘である。  目下の不満は、このご時世の部屋に扇風機しかない事であった。  だが、壁を見るとザラザラの土壁には、今どき見ない木目調のエアコンがあるにはある。  問題は故障していて、動かすと水が漏れてきて室内が水浸しになるのだ。  ラジエーターあたりがイカレテいるのは分かるが、なにぶん修理の技術が無い。  専門はパソコンやスマホのアプリ開発で、エアコンは専門外である。  修理業者が来るのが一週間後なので、リサイクルショップで買ってきた扇風機に頼る他に無い。  それよりも、大きな不満もある。  主な仕事の依頼元だったIT企業の社長が一昨日に夜逃げをして、依頼以前に事業継続が絶望的な状態と連絡が入ったのだ。  にもかかわらず、担当者は何かあるかもしれないから報酬の確証は無いが仕事を続けて欲しいと泣きついてきた。  ただ働きなんてやっていられないのでもちろん断ったが、主な収入源が途絶えた今、コネが無いならフリーランスを捨てて再就職しなければならない。     
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