第1章

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「?」  アパートの自分の部屋を出たつもりだったのだが、何かおかしい。  普段ならば、そこには二階に上がる階段の影が落ち、狭い路地の光景が広がっている筈だった。  大家さんの壁に貼ってある、いつも目が合う選挙ポスターも無い。  それどころか、どこを見ても行きつけの銭湯の煙突は見当たらないし、ファミレスのある大通りに繋がる道も無い。  使い古したサンダルで踏み出したそこは、西洋建築の街並みが広がる、どこか知らない海沿いの街だった。  どうやら高台にあるらしく、眼下に広がる町並みが日の光を反射してキラキラと煌めき、頬を撫でる海風がえらく気持ちいい。  これが海外旅行なら、写真の一枚でも記念に撮るのだろう。  だが、そんな発想にはならなかった。  反対を向くと、そこには丘の上に西洋建築の砦らしき物が見える。  彩芽は、状況が分からず、部屋に戻ろうと後ろに下がる。  すると、そこには壁があった。  後ろを振り返ると、そこには今さっき出てきたアパートの扉が、無い。  代わりに見た事も無い大きな建物の、観音開きの重厚な扉が閉じた状態で、そこにある。 「えええぇ!?」  まさにキツネにつままれた様な感覚であった。     
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