雨は嫌い

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雨は嫌い

思い出してみると、私が彼を誘うときはいつも雨だった。 彼がはじめて私を誘ってくれたときは、晴れだった。 確か、昨年のゴールデンウィーク初日。 雲一つない晴天の下、真昼間からふたりでビールを飲んだ。田舎者の私はヨコハマが異世界のようにみえて、年甲斐もなくはしゃいでいた。中華街の路地裏、クルーザーの波しぶき、すべてが新鮮で、私の心をくすぐった。 彼も私も飲み歩きが好きで、連休初日ということもあってお互いが実に開放的であった。彼は頭もいいし、遊ぶ場所もよく知っている、いかにも都会育ちの青年といった感じで私を魅了してやまなかった。それと、なんといっても年頃の女性なら誰もが振り返るほどの美青年であるから、隣を歩く私は気恥ずかしい気持ちと、うれしい気持ちとが交じり合って、私はあのとき確かに幸福だった。 「俺たち気が合うし、澪ちゃんもすごく可愛いし、いい子だよね。ねえ、今度は二人で旅行とか行こうよ。それに夏も近いしなあ。プール行ったり、夏祭り行ったりもできるよね。ちょっとせっかくだから予定立てようか。まあ、今日はゆっくり俺の家泊まりなよ。」 私は二つ返事で彼の家に泊まることにした。私は酔ったふりをしていたから、彼に体を支えられながらアパートの階段を昇った。彼はカードキーのようなものを取り出して、部屋の鍵をあけた。私は部屋に入るなりベッドに横になった。そして彼とのセックスがまもなくはじまった。彼の体はまるで彫刻のように美しく、洗練されていた。私はあまり慣れていないという素振りをみせ、恋人のように優しく抱いてもらうことを望んだ。彼は口づけをやめないまま私の服を一枚一枚丁寧に脱がし、壊れ物を扱うように私を抱いてくれた。私は女に生まれてよかったと幸せを噛みしめていた。その時は。
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