6.彼女の望み

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6.彼女の望み

 もう変身する必要も無いわね。  その言葉とともに、さっきまで理々さんだったはずの人がいなくなった。  色白の肌は褐色となり、美人ではあるがキツイ目をしたお姉さんがそこにいた。 「もう少し夢を見させてあげたかったんだけどね、仕方ないか……」  彼女は僕にキツイ目を向けて来た。 「あ、あなたは……?」 「あなた達の貧弱な言葉で言えば、悪魔と言ったところかしら。ナアマと名乗っておくわ」 「あ、悪魔!?」  そ、そんな、僕はだまされていたってことか!? 「そう。貴方の魂がほしくて色仕掛けさせてもらったってわけ。私はターゲットが一番好きな相手に変身できるのよ」  じゃあ、今まで理々さんだと思ってたのは、ニセモノだったってことか。 「ひどいよ! そんなことするなんて!」  僕はドアノブに手をかけて、あれ!? 「あ、開かない!」  じりじりと寄ってくるナアマ。ぼくはガチャガチャとドアノブをひねるがびくともしない。彼女はそれを見て不敵な笑みを浮かべる。 「無駄よ。私を浄化でもしない限り開かないわ。もしできればあなたの眷属(けんぞく)になるけど。まあ、私の弱点がつけるわけ無いでしょうけどね」 「さあ。それじゃあ、ごちそうをいただくわね」 「や、やめ……」  外は相変わらず雷がゴロゴロと鳴っている。 「ふふ、人が絶望にさいなまれるさまは美しいわね……」  怪しげな笑みを浮かべてナアマは僕の目の前までやってきた。彼女さえできたことも無いまま僕は死ぬのか。思えば何もいいことのない人生だった。走馬灯と言うけど、走る馬さえない。  理々さんさえも記憶から消えていく。 「そうそう。死ぬ前に、口付けしてあげる。見たところそういう経験も無さそうだしね。きっと、とろけそうになるわよ」  彼女と僕のくちびるが重なった。さらに舌も入れてくる。全身にしびれが走る。これがディープキス……。  ナアマさんは、僕のことをキモイって言わないで近づいてくれた。  人生の最後がこの人となら、それも悪くないと思いはじめた。 「いい子ね。そういう子は、死ぬ前にいい夢を見させてあげるわ」  夢を見させてくれると言われれば、たいがい、いやらしいことを想像するところだが、ぼくは違う夢が見たくなった。
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