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「その子は海の方を向いて、歌を歌ってたんだ。とても綺麗な声で、俺は目を瞑って聞き入ってて……。気づいたらもうそこには誰もいなかった」
海さんは少し寂しそうに微笑んだ。
「海さんは、その人を探してるの?」
「うん。毎晩、歌を聞いた時間にここに来て……。でも、1度も会えたことはない。……けど! 絶対に見つける! それで、その時に伝えたかったことを、その子に伝えるんだ!」
そう言って私見た海さんの瞳には、揺らぎない決意があった。
でも、それと私が歌っていた歌と、何の関係が?
私が不思議に思って首を傾げると、海さんは笑いを堪えるように、肩を揺らして笑った。
「女の子との距離は遠くて、年齢も顔も分からない。けれどね、その子が歌っていた歌は、君が歌っていた歌なんだ」
は、はぁ……。
なるほど。
「この曲名は……」
「だから! 題名だけ聞いてもダメなんだって!」
「なんで?」
「なんでそんな純粋な顔で首を傾げられるのさ」
あ、呆れられた……!?
私はよく分からず、持ったままだった空き瓶の入った袋をおろす。
そして手持ちの部分を結んだ。
はめていた手袋を外し、そのゴミ袋の上に置く。
海の水が足元に来るか来ないかの地点まで歩き、思い切り息を吸う。
そして私は声を出した。
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