海の歌姫

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私は歌いながら、けれど思考は歌とは別の方に行っていた。 私が中学生になって初めての夏休み。 私は親の都合で春休みの時にこの町に引っ越してきた。 小学校から上がってきた皆は、既にグループが出来ていた。 私は上手くそこに馴染めずに、誰とでも話すけれど、どこのグループにも属さないという立ち位置だった。 つまりは特に仲のいい子もいないわけで。 私は家に帰って、2階の部屋の窓から外を眺めていた。 私はそこから見える海が好きだった。 毎晩眺めて、ある日、ふとそこに行ってみたくなった。 夜。 もう皆が寝静まったあと、私は部屋の窓から外に出た。 持ち前の運動神経で2階から降り、裸足のまま足元に気を付けて砂浜に行った。 誰もいなくて、貸し切り状態で。 私はワクワクした。 足を濡らした海の水は、温かった。 私は近所迷惑にならないように声を抑えて歌を歌った。 その歌は、私が日記のように書いていた詩に、お姉ちゃんとお兄ちゃんがメロディーをつけてくれたものだった。 私はその歌がとても大好きで、よく口ずさんでいた。 なんだか力が湧いてくるんだ。 お姉ちゃんとお兄ちゃんもよく口ずさんでいた。 3人でよく歌う歌。 大好きな歌。
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