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「綺麗な歌だね」
私が歌い終えると、海さんは私の顔を覗き込んでにっこりと嬉しそうに笑った。
「俺がずっと探してた女の子って、波のことだったんだね」
「嘘ついてごめんなさい」
「嘘?」
「ネットで調べても、この歌は出てこない。それに、この曲に題名もないんだ」
「……どうして?」
海さんは心配そうな、悲しそうな顔で私を見る。
表情の豊かな人だなぁ。
「この歌は私が書いた詩に、兄弟がメロディーをつけてくれた歌だから」
「凄いね。自作なんだ! カッコイイじゃん」
海さんは満面の笑みで、嘘を怒ることなく褒めてくれた。
心も広いのか、この人は……。
「俺が、伝えたかったこと。やっと伝えられるよ」
「伝えたかったこと……?」
そういえば、さっきもそんなこと言ってたっけ。
なんだろうか。
私は、ふっ、と大人っぽい表情になった海さんの顔を見る。
「俺ね、中学受験に失敗したんだ。親は別にそんなこと気にする必要もないって言ってくれたんだけどね。第一志望校に落ちて、第二志望校に行った。けれど、滑り止めだと思って、適当に決めちゃったのがいけなかったんだ。全然乗り気じゃなくて」
海さんは私から視線を逸らさずに話す。
私も、それを受け止めるように、真っ直ぐに海さんを見た。
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