海の歌姫

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「一学期も、よく夜に海に散歩に来てたんだけど、夏休みになってから、毎晩来るようになった。そしたらある時、先客が居てね。その子の歌を聞いてたら、なんだか力が湧いてきて」 海さんは、そこでふっ、と優しく笑った。 誰にでも振りまくチャラい笑顔じゃなくて、もっと愛おしいものに笑いかけるように。 「その歌聞いたら、頑張ってみようって思えたんだ。そのお礼を伝えたくて、そのあとも毎晩ここに来たけれど、全然会えなくて。まるで海の歌姫みたいだな、なんて思ったりして」 い、意外とロマンチスト……? 毎晩来て海の歌姫を探すだなんて。 ……って、私がその日以降夜に出歩かなかったからか……。 「でも、また会えてよかった。また、歌が聞けて良かった。……ありがとう、波」 「えと……。どういたしまして……?」 「これからは毎日聞けるな~」 「何でそうなるの!?」 「えぇ~? だめ?」 ……なんて可愛い顔で首を傾げるんだ。 顔がいいと何やっても変にならないからずるいよね。 「私、受験生だし!」 「俺もだよ? もうすぐなんだけど、気分転換に散歩しに来たんだよね~」 「私も……」 「仲間!」 私たちはそれから海を眺めながらお喋りに興じていた。
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