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#01:綾瀬ほたる、少女の灯
……長い間、振り返る気もなかった過去がある。
……嘘だ。
本当は振り返ることができなかった過去である。
それを今まで振り返ることができなかったことに対して、自分で見栄を張っただけだ。
しょうもない、と笑ってくれていい。
らしくもない話かもしれないが、この話を振り返ることが少し怖い。
それくらい奥深くにしまい込んでいた記憶を、オレは今、呼び起こそうとしているのである。
……不愉快なくらいに清々しい青空に、ひまわり、強い日差し。
そんななかにぽつんと佇む、『あいつ』の墓の前で。
隣には、琴音と兄貴、それにつばさ、小鳥遊もいて、一緒に手を合わせている。
『あいつ』がいなくなってから、3回目の夏。
陽炎のせいか、それとも、このこみ上げてくるもののせいか、目の前の景色は、ぼんやりと揺らいでいる。
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