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龍子の不吉な予言に、俺は不機嫌な顔をする。それを知ってか知らずか龍子は大きく背伸びすると、椅子からすっくと立ち上がった。反動で龍子の胸が揺れ……いや、何でもない。
「わたしは寝るよ。つかれちゃった。じゃあね」
「ああ、龍子」
俺の呼び止めに龍子は意外そうに振り返る。用意していた言葉は、すこし喉につっかえた。
「その、おやすみ」
そう俺が言うと、龍子は微笑んだ。
「あまのじゃくな癖に律儀なところ、嫌いじゃないよ」
「マイペースなおとぼけものに言われたくねえ」
「そ。おやすみっ」
茶化したような物言いに、俺は恨めしい目つきを返した。まあ、龍子と俺は全くの他人というわけではないらしい。それからカッサードをケースにしまって、俺も早い眠りについた。
その晩は、すこし早く目が覚めてしまった。寝ぼけながらも俺はライターを取り出してタバコを吸おうとした。まあ法に触れる薬でないからいいだろ。
ぼけっと窓を眺めて、初めて異変に気付く。窓ぎわの机にあった透明な花瓶に、真っ赤な薔薇が活けてあった。花を飾る趣味はない。俺は部屋へと振り向いた。
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