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「隙があらば、問答無用で討たせてもらう。お前も本来は敵なのだからな」
「あたしたちとテュランノスをまとめて殺せるなら、な」
あたしの返事にサイクロンは悔しそうにうめく。
「ま、昔のことは水に流してほっぽりだすしかないさ。ここは幸い太平洋のど真ん中なんだ」
「ん?どういうことだ」
あたしはしらけた。どうも冗談が通じない人のようである。
真夜中に出発した輸送船は、太平洋の荒波を引き裂きながら南鳥島へと進路を取った。接続水域を離脱してから、バトロイドたちは作戦通りに、輸送船から離脱し始める。バトロイドが降りるたびに船体は軋み、不穏に揺れる。輸送船の見張りデッキから、あたしは女王と水平線の先を見つめていた。あたしは思わず女王へ聞いた。
「沈みやしないか? この船」
「計算ではバトロイド三百体は問題なく輸送できる……だけど上陸の前に敵が攻めてくれば逃げられないね」
女王はデッキの鉄柵を握りしめて不安げに言った。何かをひどく思い悩んでいる様子を見て、あたしは言った。
「やはり、あんたは機械じゃない。自律AIは不安という感情を持つことができないはずだ」
「それを教えるのは、褒美と言っただろう」
そう言う女王からはいつもの凛とした姿はない。
「どうした、シケた顔すんなよ」
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