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機械の足を進めて、ハッチまで近づいてゆく間、俺は女王の頼みを思い返していた。
世界の終わり、だと女王は言う。けれど、それもそれで、いいんじゃないか。俺の目の前には、灰色の世界ばかりが広がっているんだ。頼る人も、信じるモノもない、そんな俺に、女王は何を期待するのか……
突然、遠くに見える軌道エレベーターが光った。気のせいだと思っていた光はもう二、三度瞬いてから、異様な怪光線を空に映し始めた。
「おい龍子、見てるか」
「え、うん。光ってるよね……」
妖しい虹色の光を放ち始める軌道エレベーターは、奇妙でそら恐ろしい光景だった。目を離すことができない。
言い訳くさいけれど、だから俺は気付けなかったんだ。ラームの50メートル超の腕が、カッサード目がけて振りぬかれていたことに、だ。
俺が最後に見たのは真っ黄色の三つの腕が、横殴りで迫りくるビジョンだった。まず響いたのは、全盛期のアントニオ猪木が渾身の力を奮って、安アパートのドアを閉めたような音。そのあと、戦車でワゴン車を踏み潰すような音が鳴る。
ラリアットはカッサードのボディを真芯で捉え、青く広がる大空へと打ち上げた。
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