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生まれたばかりの赤ん坊が、死んでいく。まるで空中に投げ出された赤ちゃんクジラが、地面にたたきつけられて死ぬ、ブラックジョークのように。このジョークを思いついたイギリス人はどうだか知らないが、あたしは絶対に許せない。
記憶もおぼろげな姉の顔が、ソウルサーキットに浮かんで、消えた。同じ悲しみをり返させやしない。
「パニクるな! 今助けてやる!」
頂上にたどり着いたあたしは、その中心部へと駆けよった。AIハッチをレーザーカッターで焼き切り、シャッターをむりやり引きはがしながら、あたしはAIコアを目指し、狭い整備口を降りてゆく。
速く! 熱でライカが死ぬ前に!
とうとうラームの燃料槽に、火の手が回った。ガソリンの爆発は配管を駆け巡り、外装を片っ端からぶち壊し、機関部の部品を空にぶちまける。
と、同時に遠くの海面に、大きな水柱が立った。
「ミツキ!」
あたしを探しているらしい龍子の声が、水中から聞こえた。どうやらミツキの耳は異様に良いらしい。海から顔を出して、あたしは浜辺の龍子へ叫んだ。
「動くなつったのに。ほら、どっちもピンピンしてる」
大事にライカのAIコアを抱えて、あたしは親指を立てた。
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