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それから数時間後。黒焦げなラームのふもとは、駆けつけてきた海上保安庁やら自衛隊で、てんやわんやとなった。
警察の事情聴取から解放された俺と龍子は、KEEPOUTのテープをくぐって、宿屋まで歩いていた。龍子はすねた顔で不満をぶつけてくる。
「なんであたしがラームを暴走させなきゃならないの」
事情聴取の際に警察は、龍子がラームを暴走させたと、真っ先に疑った。龍子とは別の幻影能力者が、過去にそのような前例を引き起こしたらしい。だが、あたしの親衛官と言う肩書きと、ソウルサーキットの記録が龍子の潔白を証明した。
「あたしはなにがあってもおまえを信じるよ」
龍子とは教室でたびたび声を交わすくらいだったけど、目を見ればそんな奴じゃないってわかる。そう言ってやると龍子は、はにかんだ笑顔であたしの背中を押してきた。
「へへ、えーい」
わりかし強い力で押されて、あたしはむすっとした。いいやつには違いないが、何を考えているかはよくわからない。ところで、女王陛下の姿はここにない。ミツキを受け渡してから、女王は姿を眩ませたままだ。
「しっかし、あたしたちの敬愛する女王様は、何を考えているんだ。あたしをこんなアンドロイドに変えて、暴走ロボットにけしかけてさ」
「AIの思考なんてわたしでもわからないよ」
龍子はそういって両手をぱたぱたさせる。
あたしには、あの少女が機械に見えない。女王は未来を選べと言った。その問いかけと、どこかで引っ掛かりを覚える彼女の笑顔に、あたしは答えを見いだせないでいた。
夕方、宿につくと、ロビーに集まった観光客が、ラームについて話し合っていた。従業員も客も皆、テレビのニュースを眺めながら、反女王組織「クロノス」がどうの、治安がどうのと話し合っている。面倒な事になりそうなので、あたしたちはそそくさと、自分の部屋へと戻る。早く自分の身体に戻るために。
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