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で。結果的には、あたしは俺に戻れなかった。あたしの抜け殻は、部屋に移動されていた。それは問題ないのだ。だけど。
「こわいよう、おかあさん」
「だれがおかあさんじゃい」
スマホにジャックインさせたライカが、ぐずぐずと文句を言う。こいつのせいだ。生身の俺に戻ろうとしたところ、ライカがうろたえたので、未だ自分はミツキのままである。どうも、あたしは勝手に、ライカのおかあさんになっちまったらしい。
「ぐずぐず言うな、男だろ」
「ライカ、おんなのこです」
「え。マジに?」
「女性名詞だよライカは」
龍子の突っ込みであたしはふにゃる。女性ね。抜け殻の俺を見ながらため息をつく。
続けて龍子は聞いてきた。
「さっきは聞けなかったけどさ。どこのキャベツ畑から拾ってきたのソレ」
と、どこかだるそうに。龍子の瞳は妙に座っていた。
「ラームって名前の土地だ」
「ライカじゃないよ。そのアンドロイドのこと」
「あたしのコレは、さっき女王から受領した」
あたしはぶっきらぼうに答える。龍子の追撃は止まなかった。
「そういえば、昨日この部屋に女王がいたよね。なにしてたの」
「だからなんだ……ちょっとまて、なんでそれを知っている?」
本心の見えない龍子に、あたしはじりじりと追いつめられてゆく。
「もしかしてミツキと女王は深い関係が……?」
「そんなんじゃねえよ、話し合ってただけだ。あーもっ! 海水が機体にべたついて仕方ねえ。風呂で塩を洗い流してから、こんどこそぺイルアウトするぞ」
考えなしに、あたしは立ち上って部屋を後にした。行き先は、大浴場だ。
目的地に着いたあたしは、ぼけっとのれんを見つめた。のれんにはこう書いてある。女湯。
まさか自分がこっちへ入るとは、思わなかった。とはいえ今は女だしなあ。ちなみに真昼間だからか、大浴場には誰もいないようだ。
更衣室でクリーニングボックスに制服をぶちこんでから、あたしは一つの関門にぶち当たった。ブラジャー。これはどう外せばいい。そもそも前なのか後ろなのか。
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