29人が本棚に入れています
本棚に追加
もちろん苦戦した。ミツキの力ならブチ切れるけど、それはなんだかやだ。
「わかった! こうかっ、ぐへう」
外し方が分かったのは良かったものの、ホックが勢いよく外れて、あたしは自分の腹を殴ってしまう。するとカチリ、とスイッチ音がなった。……カチリ?
『対暴力切断トラップ作動。解除には管理者権限が必要です』
という人工音声が初めに聞こえた。次に、がちゃり、と鍵のかかったような音がまた鳴る。この身体は本当にさっぱり分からない。まあ、放っておこう。
浴場のシャワー前にどかっと座り、あたしは自分の義体を洗い始めた。
お湯を豪快に被る。今はさっさと洗浄を終わらせて、元の身体にぺイルアウトしたい。鏡に映るミツキを見る。長い赤毛に緑の瞳と少し悪い目つき、整いすぎている顔、それと素っ裸の女の身体。自分の身体だから、全くありがたみが感じられ……
その時だった。風呂場の引き扉がガラガラと音を鳴らした。誰かが入ってきた? そんな。心の準備もなんもねえのに! 靄の中から近づいてくる誰かに、ミツキのカメラは無意識にフォーカスしてゆく。焦った。なんと言えばいいのだろう、こんにちは? お先です? いや、浴場で声をかけるのはどうなのか。
人影を認識して、そんなどうでもいい考えは、きれいさっぱり吹き飛んだ。
目の前に、生まれたままの姿の龍子が立っていた。
ロケットのようにくっと前に突き出た胸と、キュッとくびれた腰、尻が描く豊かな曲線から繋がるおみ足。ソウルサーキットは混乱を極め、ブルースクリーン寸前まで追い込まれた。
「り! リュ? 龍子! なんで入ってきてんだよ!」
「だってここ女湯なのに」
と、両手で髪をかき上げながら、龍子はいつもと変わらない調子で言う。や、やめろその恰好は……ん?
あることに気付いて、あたしは少しだけ落ち着きを取り返す。龍子の『大事なところ』は不自然にぼやけて、見えなくなっていた。まるでモザイク処理のように。あたしはうめく。
「幻影投射で、金かくしするなよ」
「あたり。くやしい? なんなら外せるよ」
「なわけねえだろっ!」
龍子のからかいに、あたしは風呂桶をガポンと床にたたきつけた。
最初のコメントを投稿しよう!