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減らず口を叩いてみたが女王の呪い殺すような目つきにおじけて、あたしは文句を引っ込めた。どんな身姿であろうと、女王は世界の支配者なわけで。
「で、なんであたしはぺイルアウトできないんだ」
異常はそれだけじゃあない。あの直後から、女王の息のかかったすべての電子機器が使えなくなっている。ソビエト製のAIだったライカはぴんぴんしているが。
「軌道エレベーターからのジャミングが、世界の電子機器を狂わせている。修復は行っているが、ボクの生み出した技術大半は使用不可能になっている。アンドロイドパイロットの意識転移も例外でなくね。今転移すればお姉さんの意識は間違いなく死ぬ」
「って、おい。じゃああの肉体はどうなんのさ」
「大丈夫。お姉さんの肉体はボクが責任をもって保存管理するから」
「どこが大丈夫なんだ、結局あたしは女アンドロイドのままじゃないか!」
ミツキはガニ股で身の思いをぶちまける。すると、女王はまた顔を赤くして目を覆う。
「それは、問題だね。……あの、タオル落ちたよ」
呆れたように女王が指摘すると、真っ裸のあたしは床へしゃがみこんだ。
「えっ、うあっ!」
とっさに叫んだあたしの声は、まさに女の声だった。背筋が凍る。あたしは女にはなりたくない。正真正銘の男なんだぞ。あたしは怒りを女王へとあてつけた。
「そもそもあんたがティラミスだかボブディランだかの討伐をあたしに依頼しなきゃ、女の身体にならずに済んだのに!」
「なっ、なにを! ボクはラームと酔っぱらったこの子から、お姉さんを救ってあげたっていうのにさ!」
「余計なお世話だっ! ポンコツゥ!」
あたしのその言葉に、女王はキレた。女王は冷徹な声でつぶやいた。
「sit down」
「がっ」
すると身体の自由が全くなくなり、いつの間にかあたしは勝手に床へ伏せていた。
「お姉さんはボクの直属部下たる親衛官なんだよ? ほかの女にうつつを抜かして失礼な言葉を吐いていいとでも?」
あたしは頭を上げて文句を言おうとしたが、女王の形相を見て喉元で言葉が引っ込めた。女王の眼は光を失い、異常なほどうつろだった。それだけじゃなく、女王は神々しい真っ白な光を身体から発散させていた。
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