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「あ、ああ分かった。分かったよ。で、あんたは何しに来たんだよ」
「とにかく! テュランノスを倒すため、あなた方には今すぐ小笠原諸島へ旅立って頂きます」
「おい無茶言うな」
「つぎちんちんさせるよ」
「それ今はねえよ」
あたしの返しに女王は面喰った。
「そっ、それを返してほしければボクの命令にしたがってよ! 軌道エレベーターにテュランノスがいる限り、お姉さんはずっとミツキのままさ!」
「う、おう」
それからしばらく女王は「計画に支障が出る」だの「これでは次世代が産めない」だの、よくわからないことをぶつぶつと呟き続ける。
あたしは不機嫌な面で胡坐をかいて頬杖をつく。結局、女王の手伝いに駆りだされるわけだ。世界の未来、か。あたしは女王に聞いた。
「あのさ。なんで女王は、あたしなんかに世界の未来を託すんだ?」
だっておかしいだろ。女王にはAIの大臣や配下のロボット軍、各国の政府などのでっかい組織があるはずだ。それなのにあたしたち高専生にテュランノス討伐を頼むんだから。
女王陛下は目を細めて、柔らかい笑みを浮かべる。彼女は、ミツキの唇に人差し指を当てて小さくささやいた。
「軌道エレベーターを取り返してくれたら、ごほうびにおしえてあげようと思う」
当惑したあたしを残したまま、女王は音も立てず、夏への扉をくぐって部屋から出ていった。それからあたしは寝入るまで、頬杖をつき夜の月をぼんやりと眺めていた。花瓶には女王の置いた真っ赤な薔薇が入ったままだった。
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