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小首を傾げて龍子は聞いてくる。大きく開いた龍子の作業着の襟から、胸の谷間がくっきり見えた。龍子の胸は……その、でかい。
目のやり場に困った俺は顔をそむけ、作業手順書に目を泳がせた。
「腕部の修理は今日で終わりだ。けれど、まだもう一つ仕事が残ってる。ラームのAIを取り出してから修復しなくちゃ……」
ちらっと頭を上げて俺は黙り込んだ。目の前に巨大なハリネズミ一匹いたからだ。ロビーを走り回っていた召使ロボットがエラーで停止し、近くのソファに座っていた観光客のおっさんは、驚きのあまりひっくり返る。あのなあ。
「おい龍子。用が無いなら幻影を使うのは止めてくれ。ほら、手順書」
俺が注意すると、鼻をすんすん鳴らすハリネズミがぼやけて消えていった。
龍子はESPを持っている。特殊な電圧を飛ばして人間の脳にまぼろしを見せる幻影投射資格。コンピューターの操作にも適応できる万能能力だが、資格者はまだこの世に十人といないレアものだ。
「みつきは幻影投射に強い体質だね。普通ならでっかいハリネズミがいっぱい見えるんだけど」
「得することねーな。それでなんでハリネズミなんだ」
「わたし飼いたいんだ。かわいいもん」
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