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第二章
カッターに乗った俺たちは、二見港という父島唯一の港へと着岸した。
島を見渡してみる。港を囲うように普通の一軒家やマンション、学校が立ち並んでいる。
その光景だけを切り取れば普通の島だ。けれど、どこを見渡しても水平線しかない海原と、東から吹き付けてくる風が、ここが最果ての島であることを理解させる。
透き通った海の底に広がるサンゴ礁、島に根付いている曲がりくねった木々たち、間違いなくこの島々にしかない風景だな。
ただ、本来ならこの島にはない景色もそこかしこにある。港にはライフルを担いだ自衛隊員が立っていて、要所要所を封鎖していた。自衛官に必要な書類を見せて、許可をもらうまでかなりの時間を喰っちまった。検問所の浮き港を抜けた。漁師や観光客はあたしの派手な制服が気になるらしく、遠巻きに眺めている。
そのせいで無意識にスカートを押さえ、歩幅を小さくして歩くあたしがいた。
「しょーがないよ。ミツキは目を引くほど美人なんだよ」
龍子がぽわぽわしながら他人事の如く言う。
「美人が相手ならともかく、自分が美人でもうれしくねーよ」
「ふーん。ミツキ一号はふつーなのにさ」
「人をライダーみたいに言うなオラ」
「で。今後の予定は?」
「まず父島の資材集積所からマスターキーを入手して、次に母島の『誰か』にパスワードを教えてもらって、最後に南鳥島の軌道エレベーター管制塔でテュランノスの妨害を止める」
「へー。おつかいならすぐ終わるね」
あることに気付き、あたしは眉根を寄せた。
「そう上手く行く気はしないけどな」
首から下げたスマートフォン――ライカが、警告を伝えてきた。
「おかあさん、なにかついてきています」
「ああ、知ってる」
ミツキのレーダービジョンには時折、尾行者の影がちらついていた。どうも、光学迷彩を使用したアンドロイドのようだ。
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