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第一章
第一章
東京から87キロ南の太平洋に浮かぶ島、八丈島。ここからさらに南へ下ると小笠原諸島が連なっている。女王陛下はこの島々を足掛かりにして、月まで延びる軌道エレベーターを東の果てに建設した。軌道エレベーターというものは、赤道直下の海に建てるのが最も都合がよいらしい。だから宇宙開発能力を持ち、赤道付近に広い領海を保有する日本に白羽の矢が立ったわけだ。
「お帰りなさいませ、屋島光希さま。鍵はこちらです」
俺は宿屋のフロントを通って、ロビーのソファに座って龍子を待つ。
しばらくして、部屋鍵をプラプラさせながら、龍子がぱたぱたと歩いてきた。
緩くウェーブの掛かったショートカットと、ぱっちりしたとび色の瞳。端整な顔立ちは綺麗よりも可愛いという言葉が似合う。ただ、性格と能力は色々とやっかいだ。マイペースないたずら好きで、隙あらば俺をからかってくる。
龍子は八重歯を見せながら屈託なく笑って聞いてきた。
「なんだか様子が変だね。頭でも打った?」
「怪我は心配ないさ」
「んー、なんか隠してない?」
「偽物使いは嘘つかねえよ」
「そう? で、仕事はこれでおわりなの?」
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