君を想えば、

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 疑いの眼差しで彼女は彼を見据える。チクチクと刺さるそれは、大いに気まずさを醸し出していた。 「えっ!? いや、オレは別に……関係ない、から……」 「そうだよね。ハルカが木下くんみたいな子に興味があるわけないよね」  『みたいな子』とは失礼な。そう思ったが、なにも言えない。判ってしまった。――この子はハルカが好きなんだ。 「だって木下くん男だし、男同士なんて気持ち悪いよ」  言葉が突き刺さる。例え軽口だろうと、攻撃力は鋭利な刃物に価するようだ。二度三度と視線を泳がせ、俯いてしまう。 「ミノリ」 「え、なに……?」  名前を呼ばれ顔を上げると、彼は携帯を持っていた。 「あ……」  そこには誕生日プレゼントのパンダのぬいぐるみストラップがぶら下がっている。 「気にするなよ」 「……バカじゃねぇの」  頬を染めて視線を逸らす。 「な、なによっ! なんでハルカは木下くんに優しくするのっ?」 「優しくするとかしないとか、そんなのは俺の勝手だから」 「っ――、木下くん、なんかクラスで浮いてるし、ほっとけないんでしょ?」 「……知りもしないくせに」  掌を握りポソリと呟く。なにも知らないじゃないか。 『浮きたくて浮いている訳じゃない。知りもしないのに、適当なことを言うな!!』  そう言い掛けた言葉を寸でのところで飲み込む。荒げることはしたくなかった。 「え? なに?」 「――なんでもない」  怒りを鎮めようと、ふーとため息を吐いた。それでも、簡単に鎮められないけれど。 「ハルカは海が嫌いなのか?」  ミノリは徐に口を開く。どうにかしてあげたい。彼女の為に。 「別に嫌いじゃないけど……」 「なら行けばいいだろ。オレは行けないけど、楽しんでこればいいよ」 「……本気で言ってるのか?」  思わず眉根を寄せれば、一瞬ミノリの躯が跳ねる。なんだか怒らせてしまったらしい。その証拠にハルカの機嫌は悪くなってしまった。 「本気っていうかっ……オレだって行きたいけど、人が多いのは苦手だし……」 「今なんて?」 「え、本気っていうか……?」 「行きたいけどって、言ったよな?」 「ハルカとなら行きたいよ」 「じゃあ、行こうぜ。ミノリが行くなら俺も行くし」  いとも簡単にあっさりと言い放った。こうも変わるものなのか。 「へ?」
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