夏の魔物

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夏の魔物

「桜の花びらが消える理由、花粉症のマスクがコンビニから消える理由、カタツムリが姿をくらます理由、蚊が現れる理由、そういう理由は全部、ぼくが指を鳴らすからなんだ。ぼくが指を鳴らすから、夏が来るんだよ。ぼくは夏実行委員みたいなものだね」  そう伝えると、隣に座る男子中学生が「は? なんだお前。意味わかんねーし」と口を尖らせた。  夕暮れ時、なかなかやって来ないバスをベンチに座って待っていたら、隣に中学生が二人腰かけた。男子と女子だ。夏休みに入ったから、二人で海にでも行きたいねであるとか、花火を見に行こうであるとか、遊園地は混むであろうか、なんて話をしていたのが聞こえてしまった。付き合い始めなのか初々しい。  たとえば、漫画家が隣で自分の描いた漫画の話をしているのを偶然耳にしたら、「それ、作者私なんですよ」と言いたくなるのではないだろうか。それと同じだ。ぼくは思わず、口を開いていた。「それ、ぼくが指を鳴らすからなんだよ」と。 「ちょっと、やめなよ」と男子は女子に嗜められた。ものわかりのいい子は好きだ。と、思っていたら、「子ども相手に、ムキにならないの」と注意をつづけた。     
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