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第十夜
こんな夢を見た
私は一心不乱に地図を写している。
地図は古本屋で買ったものだろうか、綴じ紐が今にも切れそうになっている。
筆を抑える右手は肘から下がうまく動かず、カタカタと震えている。
その私をあざ笑うかのような右手を幾度となく台に叩きつけていると、やがて静かになった。
シーンとしていた。ネズミの柱をかじる音と屋根裏で人のクスクスと笑う声のみが聞こえた。
ふと台の上に目をやると、右手がひどく汚した地図と写しがあった。
私はやおら立ち上がり、襖に手をかけて漸く気づいた。後ろに佇む男は私が声をかけても応えることはなく、座っている。
どうしてこんなところにいるんですかと尋ねながら肩を掴むと、あなたが連れてきたんじゃあありませんかと言ってわらった。
肩は冷たかった。
確かに男は昨夜私が殺してしまった男によく似ている。ただ一つ、私が振り下ろした斧で割れたはずの男の頭が割れていなかったことを除けば。
そうかと言って私が男から離れると、クスクスという笑い声が大きくなってきている。
そのためだろうか、ふと罪悪感に包まれた。ああ、死んでしまいたいという言葉が口をついて出てきて、それに応じるかのように地面がグラリと揺れた。
あっと声を上げて私はおどろいた。柱は今にも折れそうである。天井がプツリと落ちて来る。
今更、嘘です、死にたくはありませぬと叫んでみたところでもう遅いのだろうなぁ。
私はいつの間にか右手の中にあった地図の写しを握りしめた。
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