第七夜

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第七夜

 こんな夢を見た  私は弟とともに川に釣りをしに出かけていた。しかし、私は釣りに心得がなく、そもそも興味すらなかったのだが、弟が久しぶりに釣りに行きたいとせがむので連れて行ってやることにした。  私は魚の餌を針につけて川の辺りで糸を垂らしていたが魚は全く現れない。釣れないねぇ、と声をかけると、少しばかり離れたところにいる弟はそうだねぇと頷いた。  それからしばらくったった。釣れそうかい?と弟は聞いてきたのでいいや全くと答えるとそうかいそうかいと返して来た。  またしばらくたった。釣れそうかい?いいや全く、そうかいそうかい。  そしてまた少したった。釣れそうかい?いいや全く、そうかいそうかい...釣れそうかい?弟は私に間も無く聞いて来た。だんだん腹が立って来た私は、釣れないと言ってるじゃあないかと言った。あるいは怒鳴っていたのかもしれない。  帰ろうか?と私がいうと弟はそうしようと言った。  弟も一匹も釣ってはいなかった。  ふと気づいたら私は椅子に座っていた。それも気取った外国製の椅子に。  ストントントン、ストントントンと音がした。  横を振り向くと弟が奥の台所で魚をさばいているのが見えた。  ストントントン  その魚はそうしたんだい?と私は聞いてやったら弟は、何を言っているんだい?帰りに市場の魚屋が一匹大きい魚を譲ってくれたんじゃあないか、と弟は答え、またその手を動かした。  ストントントン  魚は裁かれると同時に行き場を失った血液がまな板を伝っていくのをみていた。私はそれに気づいてしまったためにか今までに感じたこともない妙な感覚に囚われた。  ストントントン  待ってくれ、と意識とは裏腹に唇を突き破ったその言葉は弟を振り向かせるのに事欠かず、どうしたんだいとふり返った。  ストントントン  首から上だけ。  ストントントン  ゴトリと鈍い音を立てて弟の一部(もしかしたら本体なのかもしれません)が落ちて、少しばかり潰れた。魚と同じような色の血潮が床を濡らしていた。  ストントントン  やおら立ち上がった私はもうくっつくことのないだろうそれを庭の小池に投げ込んでやったのだ。
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