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「VIPは、四十分後に所定位置に就く。移動経路班、式典会場班は再度、場内の不審者、不審物等の検索を実施せよ」
式典会場班の天羽翔は、同僚の藤川豪(ふじかわ・ごう)巡査と二人一組で行動していた。
「それじゃ、ぼちぼちやりますか。見て回る場所なんて、もう残ってないけど」
藤川は、警帽の鍔をぐいと下げ、赤絨毯が敷き詰められた正面入口の方に向かって歩き出した。
「藤川さん」
翔の呼び掛けに、藤川は振り返った。藤川は自分より二つ年下だが、高卒で警察官を拝命しているので、警察官としては先輩だ。
「何か?」
「今度の非番はいつですか?」
「式典が終わったら一段落だから、今度の土曜日かな」
「じゃあ、金曜日に一杯いきませんか? 久々に帯広に繰り出しましょうよ」
「いいっすね」。藤川はニヤリとした。
「こんな警備の仕事ばかりしてたら、息が詰まってしまう」
「藤さんは、刑事志望でしたよね」
最初に赴任したときから、藤川はこの宇宙港勤務を快く思っていなかった。
「こんな場所に勤務してたら、刑事の声も掛からないよ」
「でも出世するなら警備じゃないですか。注目の施設だから、チャンスはあると思うけどな」
藤川は振り返った。
「そりゃそうだけど、別に俺は出世したいとは思ってないっすよ。どっか札幌市内の所轄で外勤やってれば、刑事の声が掛かるかと思ってたんだけど、よりにもよって、空港の警備だもんなあ。たとえ警備にいても、俺たちみたいな高卒は、この世界で出世目指しても無駄、無駄。天羽さんはいい大学出てるんだから、俺たちと違って、狙えば上行けるんじゃない?」
「いや」。翔は小さく首を振った。「出世狙うなら、別の組織を選びますよ」
藤川は一瞬立ち止まって、不思議そうな顔つきで翔の表情を覗き込んだ。
「ふーん」。それだけ言うと、藤川はまた前を向いて歩き出した。
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