3.開港式

3/6
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/271ページ
 中務首相は予定通りの午前十一時五十分に、来賓席最前列の中央に着いた。翔からは白髪交じりの後頭部がわずかに見えただけだが、取り巻きの本庁SPがかもしだす異質な空気で、重要人物という存在を誇示していた。ほどなく、翔の守備範囲に、福住大臣がゆっくりと歩を進めてきた。背の高い四十代の若々しい大臣だ。首相に比べると、お付きのSPは少なく、その分、異様なムードは弱いが、背筋をピンと伸ばして歩く凛々しい姿は人目を引いた。大臣は真っ直ぐに前を見たまま、翔の前を通り過ぎ、首相の隣に着席した。  来賓五百人に対し、式典会場だけで警備の警察官は二百人を超していた。ほとんど来賓を警備陣で包囲しているような状況だ。さらに、ターミナルや宇宙港敷地内には、八百人を超す機動隊員と十二台の特殊装甲車が配置されている。宇宙港にアクセスする道路にも十重二十重の検問が設けられていた。言うまでもないことだが、ヘリコプターや衛星による上空からの監視にもぬかりはない。「水も漏らさぬ警備」。隊長の川原警視正の言葉通り、完璧な布陣だった。テロリストの入り込む隙など全くない。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!